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「よぉ真織ちゃん。お父さんは?」
「知らん! あんな奴父じゃない!」
「なんかあったのかい? 今日はヤケに腹立ててるな」
いつものことだと言い返したかったが、真織はむぅっと頬を膨らませるだけで何も言わない。
するとその様子を見ていたお兄さん方は、頬を赤く染めてゴツゴツとした大きな手で真織の頭をなでた。
「真織ちゃんもあんなクソ親父を持つと大変だねぇ。これ、あげるからおいしいものでも食えよ」
そう言って真織の手に万札を数枚握らせてくれるが、真織はすぐにそれをつき返した。
「いらない。あなた達の稼いだお金よ。そんな風に使ってほしくない」
真織がハッキリとした口調でそう言えば、真織の知らない顔のお兄さんが「あぁん?」と眉間に皺を寄せて近寄ってきた。
「このクソ女ぁ! 兄貴が好意で言ってやってんのに、なんだその態度はっ!?」
「おい、やめねぇか。真織ちゃんに手ぇ出したら俺が許さねぇからな」
詰め寄ってくる兄さんに、お金を差し出した男は彼を阻止しながら、真織が返したお金を懐に戻していく。
真織に反感を抱いたその男は、自分の兄貴分を見て理解できないと言ったような表情を見せたが、彼はその弟分に何も言わないまま真織に言った。
「いい加減、金返してくんねぇとさぁ、こっちも商売なんだよ。真織ちゃんのことは好きだけど、オトーサンのせいで真織ちゃん売り飛ばすには俺達としても惜しいわけだ。さっさと借金返せっつっといてくれるか?」
穏やかながらもドスの聞いた言葉に、真織は素直に頷きながらも、実はもう売り飛ばされるみたい……という言葉を飲み込んだ。
それを言ってしまうと、この人たちは本当に父を殺めてしまうかもしれないからだ。
一連の流れから理解できるだろうが、真織に対して友好的なお兄さん達の目的は、父が作った借金返済の取立てだ。
真織が一言告げ口するだけで、お兄さん達は怒り狂って父を古家から引っ張り出し、むしろ父が売られるだろう。
誰がどう見ても父は役立たずな人間だから、分割してさばかれそうだ。
いくら馬鹿親父でもそれだけは避けたい。
真織が「ごめんなさい」と小さくつぶやくと、お兄さん方は真織を囲んで「真織ちゃんのせいじゃないよ」と言った。
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