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「もう伊真ちゃんったらん!! 女の子は体を冷やしたら駄目なのよぉん!! ほうら、これ巻いときなさいっ」
「え? えー。ファーが付いてるから寒くないってばー」
「あらぁやだこの子!! 頬をリスさんみたいに膨らませて可愛いじゃないのう!! でも巻いときなさい!! じゃないとあたしの唇が伊真ちゃんのお口を塞いじゃうからねぇ!!」
「こらそこの万年発情期おかま! 周りを気にしろ周りを」
「やあん痛ぁーい!!」
誰よあたしの後頭部を叩いた……というより、絶対に殴ってきたのは!?
身長に低い伊真ちゃんにあたしが巻いていた黒色のマフラーを巻き付けて、それを取ろうとしては頬を不満そうに膨らませる伊真ちゃんを駄目だからねと叱りつけているあたしに襲いかかってきたのは、背後からの使者。
じんっと痛んだ後頭部を押さえながら振り返れば、そこにはあたしと伊真ちゃん同様あたしの幼馴染の斎藤晴香(サイトウハルカ)が眉をつり上げて立っているじゃないの。
伊真ちゃんもだけど、どうして今時の女子って口よりも手が出るのが早くなってしまったのかしら。
「龍樹君ありがとうね。伊真は私の言うことを一つも聞かないから」
「あらぁん。妙子さんは優しいんですもの。だから伊真ちゃんは妙子さんに甘えてつい調子こいちゃうだけよぉん」
「調子こいてないしっ」
晴香ちゃんの隣に並んでいてはあたしに向かって頭を下げてきたのは、伊真ちゃんのお母様の妙子(タエコ)さん。
女手一つで伊真ちゃんを育ててきた妙子さんは、大事な大事な我が子であり唯一の家族でもある伊真ちゃんには砂糖のような甘い優しさを向けてしまっていて、伊真ちゃんも伊真ちゃんで、無条件に甘えれるのは妙子さんだから、反抗しても許してくれるって分かっていてつい妙子さんの言うことを聞かないのをあたしは知っている。
まぁそれは晴香ちゃんも知っている事なんだけどぉ。
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