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青年が意識を取り戻したのは国境を越えた後だった。
ボロボロの青年は玉座の前に跪く。
小国の王は告げた。
「彼の国は忘れよ」
「しかし父上……」
「もともとお前は隣国には人質として滞在しておっただけだ。もうその必要は無い。よいではないか。あの強国が勝手に滅びの道を行こうというのだ」
王の言葉に含みはない。心底ほっとしている様子が窺える。
小国の王は天災のような魔物の襲撃よりも、人の巻き起こす戦争を恐れているようだった。
「お前の武勇はこの国も聞き及んでいる。今後は大将軍として兄を支えるのもよかろう」
「……」
青年は返事をしないまま下がった。
心労と疲弊を慮って、王も臣下も何も言わず心配そうなため息だけをついた。
だが、青年の目は死んでいなかった。
その後も姫の国は、事件当初ほど大規模ではないものの、度重なる魔物の襲撃を受けていた。
国力を見る見る落としていく戦いが、一時的な解決の代償だということは知られていない。
ただ、不気味な噂のみが囁かれていた。
「私は、忘れることなどできない」
その夜、第二王子と呼ばれた男は出奔した。
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