6/6
前へ
/40ページ
次へ
 青年が意識を取り戻したのは国境を越えた後だった。  ボロボロの青年は玉座の前に跪く。  小国の王は告げた。 「彼の国は忘れよ」 「しかし父上……」 「もともとお前は隣国には人質として滞在しておっただけだ。もうその必要は無い。よいではないか。あの強国が勝手に滅びの道を行こうというのだ」  王の言葉に含みはない。心底ほっとしている様子が窺える。  小国の王は天災のような魔物の襲撃よりも、人の巻き起こす戦争を恐れているようだった。 「お前の武勇はこの国も聞き及んでいる。今後は大将軍として兄を支えるのもよかろう」 「……」  青年は返事をしないまま下がった。  心労と疲弊を慮って、王も臣下も何も言わず心配そうなため息だけをついた。  だが、青年の目は死んでいなかった。  その後も姫の国は、事件当初ほど大規模ではないものの、度重なる魔物の襲撃を受けていた。  国力を見る見る落としていく戦いが、一時的な解決の代償だということは知られていない。  ただ、不気味な噂のみが囁かれていた。 「私は、忘れることなどできない」  その夜、第二王子と呼ばれた男は出奔した。
/40ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加