儚き命。

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着替える為に家に戻ると、戸を挟んだ向こう側から言い争うような声が聞こえてきた。 『おっかさん、うちだって裕福じゃないのよ。あの子を引き取ってからどれだけ苦労してきたか』 『苦労ってねぇ、あなたがお嫁に行って代わりにあの子が入ってきたようなもんじゃない。そんなに苦労はしていないわ』 『だけど実際生活が苦しいのは事実でしょ。だから千歳ちゃんを早めに奉公に出すかお嫁に出して───』 戸の前で二人してその会話に聞き入っていた。 うちは裕福ではない。けれどそれなりに幸せに暮らしてきたつもりだ。千歳を養子に迎えてから生活が更に苦しくなっただなんて母上や父上からはそんなこと感じなかった。 しかし、戸を挟んだすぐ側で姉が母上に話していることは事実なのだろう。 『千歳、先にけん坊の所へ行くか』 『……うん』 何も聞かなかったかのように俺はその場から千歳を引き離した。
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