儚き命。

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健吉は数えで四つだった。 病弱に生まれて、長くは持たないかもしれないと言われていたにしては、長く生きたのかもしれない。 俺は今まで人の死を間近で触れることは無かったのだが、初めて見た〝死″とは、健吉の亡くなった姿だった。 後日俺達は通夜に出向き、健吉へ静かに別れを告げたあと、帰ろうとしていた。 そこへ、ひとりの少年が千歳に声をかけてくる。 少年といっても、年端は俺とそんなに変わらない。 どこかで見た顔つきだと思ったら、あの日、健吉の母親の背を気遣うようにさすっていた少年だった。 『あの、貴女はあの日、健吉に話しかけていた方ですよね?』 『そうだけど』 『何故、貴女は涙を流さないのですか。私と同じように、健吉と仲良くしていたのでしょう? そんなの寂しいと思います』 そう言う少年の頬には、幾筋もの涙の跡が残っていた。 されど俺は、千歳に唐突に話しかけてきてこれか、とその少年を軽蔑した。 涙など、その人が流したいときに流せばいいもの。 誰かにどうこう言われてから流すものでは無いのだから。 『それじゃあ逆に聞くけど、あなたは何故泣いているんですか? 涙を流す必要など、わたしには無いと思う』 『な、なんてことを言うんですか! 健吉が永い永い眠りに就いたんですよ! 貴女は悲しくはないのですか!?』 『悲しいよ。だからこそ流す必要など無いと思う。だって涙を流せば、まだ近くにいるかもしれないけん坊が、安心して旅立てないじゃない。 だからわたしは泣かない。はじめくんだってそうだよね?』 『ああ』 俺も千歳に頷くとその少年は、頭を垂れた。
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