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『強いんですね、貴女は。それと君も。健吉の一生はとても短かった。もっと遊びたかったろうに。可哀想だ……』
『……ひとつ言わせてもらうが、可哀想だと思うのは、俺は違うと思う。けん坊の生きた年月がたとえ短くともだ』
『どういう意味ですか、それは』
『分からないのか? 限られた命の中で、どう生きたのかが大事だということだ。
けん坊も楽しく生きられて幸せだったんだろう』
俺が言えば、随分冷めた言い方ですねとそいつは顔を険しくした。
ただならぬ剣呑な雰囲気が一瞬だけ漂いはじめた中、千歳が間に割って入った。
『はじめくんが言いたいのは、けん坊自身もただ悲しんで旅立ったわけじゃないってことです。
あなたもけん坊と遊んでくれたんでしょ? その一緒に遊んだ楽しい思い出があれば、ただ短かった一生だったとわたしたちが嘆く必要は無いってことですよ』
俺が言いたいことを千歳が代弁し、これには納得したように押し黙った。
『………そうですね。悲しいだけでは無いのかもしれない。
私達は笑顔で送り出さなければいけませんね』
この少年が語るには、天然理心流の道場、試衛館の出稽古でたまにこの辺りに来ることがあり、稽古をつける合間に健吉とは出会ったという。
そして自らを、沖田宗次郎だと名乗った。
これが俺と総司との出会いだった。
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