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家に帰る途中、隣を歩く千歳の足がふと止まった。
見ればどこかを一心に見つめていて、その見つめる先を追うと、雲の隙間から、まるで階段のように天から降り注ぐ陽の光があった。
『死んじゃったん……だね』
その陽光を見つめながら、ぼそりと千歳は呟いた。
千歳の表情は、どのようなものなのか俺には読み取れなくて、同じように陽光を見上げる。
『人の命って、あっけないものなんだね。蝋燭の火をふっと吹けば消えるように、消えていってしまう……』
『仕方ない。そういうものなんだからな』
『あの時、火事の時ね、おとっさんとおっかさんが倒れてきた長屋に巻き込まれて、わたしにひとりで逃げろって言ったの。自分たちは置いて行けって』
『千歳、それは──』
千歳の両親は大火で亡くなった。今回けん坊が亡くなったことで、辛いことを思い出してしまったのかもしれない。
『大丈夫だよ、はじめくん。それはもう平気だから』
未だ空を見つめ続ける千歳が、俺の目を見て言わないことに、俺はどことなく距離感を感じた。
俺のことをまだ頼りきれていない、そんな距離感。
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