儚き命。

9/10

53人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
家に帰る途中、隣を歩く千歳の足がふと止まった。 見ればどこかを一心に見つめていて、その見つめる先を追うと、雲の隙間から、まるで階段のように天から降り注ぐ陽の光があった。 『死んじゃったん……だね』 その陽光を見つめながら、ぼそりと千歳は呟いた。 千歳の表情は、どのようなものなのか俺には読み取れなくて、同じように陽光を見上げる。 『人の命って、あっけないものなんだね。蝋燭の火をふっと吹けば消えるように、消えていってしまう……』 『仕方ない。そういうものなんだからな』 『あの時、火事の時ね、おとっさんとおっかさんが倒れてきた長屋に巻き込まれて、わたしにひとりで逃げろって言ったの。自分たちは置いて行けって』 『千歳、それは──』 千歳の両親は大火で亡くなった。今回けん坊が亡くなったことで、辛いことを思い出してしまったのかもしれない。 『大丈夫だよ、はじめくん。それはもう平気だから』 未だ空を見つめ続ける千歳が、俺の目を見て言わないことに、俺はどことなく距離感を感じた。 俺のことをまだ頼りきれていない、そんな距離感。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加