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『あのね、わたしが言いたいことはね、おとっさん達が亡くなったのはあまりにも突然で、けん坊も病弱だったけど、突然逝ってしまった。
いつ何が起こるか分からなくて、あっけなく散ってしまう命。
その儚さに、わたしは虚しさを感じちゃうんだ』
『千歳……』
空を見上げるその頬に、一筋の涙が流れていた。
初めて見る千歳の涙だった。
『はじめくん、わたし……』
そこで俺に振り返った千歳。
今にも消え入りそうで不安げな顔。
言いたいことは分かる。いつかは自分もそうなってしまうかもしれないという不安。
だからこそ俺は静かに抱き寄せて、ゆっくりと抱き締めた。
『大丈夫だ、千歳。俺はずっとお前の傍にいるから』
その頭を撫でてやると、堰を切ったように泣き出した。
ずっと溜め込んでいたのだろう。
両親のこと、突然孤独になった戸惑い、そして身近に触れた死。
通夜ではあの少年に気丈に振舞っていたが、心の中では泣くまいと必死に堪えていた筈だ。
千歳が泣き止むまで、俺はずっと抱き締め続けた。
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