懐かしき悪戯。

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木刀を脇に置き、土方さんと向き合って正座をしながら、互いに集中力を高めていると宗次郎がこちらに近づいて来た。 『土方さん、防具が緩んでいます』 と、そう言ってから、土方さんの背後に回って手をかけた。 『すまねぇな』 『いいえ、とんでもないですよ。練習は危険を伴いますからね』 しかし。 宗次郎は土方さんの緩んだ面を直してくれるのかと思いきや、 『──痛っ!』 その頭上から手刀をお見舞いさせた。 『……』 『ぷふ。土方さん油断しちゃ駄目じゃないですかぁ。不意をつかれるなんて、日頃から稽古をちゃんとしてないからじゃないですかぁ?』 『……そ、宗次郎、てっめぇ!』 怒りを露にして宗次郎に襲いかかるのを、俺と近藤さんの二人で必死に止めにかかる。 『土方さん!』 『歳、いちいち相手にするんじゃないよ。稽古前だというに』 『チッ。そうだな近藤さん、むきになればあいつの思う壺だな。悪い、山口。稽古を始めよう』 明らかに張りつめていた緊張感が途切れ、場を宗次郎に乱されたが、気持ちを切り替えて、仕切り直すことになった。 互いを見据え、どちらかが先に動き出すことで試合は始まる。 正座をしたままなので、どちらが先に木刀を握って動き出すのかを見極めるのが肝心だ。 出だしで遅れると圧倒的に不利になる。 土方さんは、さっき集中力を乱されたことなど、意に介さぬほどの緊張感を醸し出している。 試合を見守る者も、しんと静まり返って様子を窺っている。 ──刹那。 極限まで高まった緊張感が切れ、土方さんが先に動き出した。 しまった、出遅れた! その動きについてゆけなかった俺は、最初の一撃はかわすことは出来ないだろうと、防御する構えを咄嗟に取ったが───。 おかしい。いつまで経っても衝撃がこない。 俺は木刀を下ろして、土方さんの方を確かめると、その人は呆気に取られて動きが止まっていた。 そして、その手に握られていたのは──
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