懐かしき悪戯。

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『ったく、腹立たしい餓鬼だな。頭の中スッカスカなくせによぉ』 そう言って土方さんは、迷いもなく千歳の頭を拳骨で殴った。 『ちょっと!』 女子の頭を殴っていいものかと、俺はすかさず抗議する。 『土方さん、千歳の頭を殴るのは止して欲しいと言ったではないですか! もしコブでも出来て、嫁の貰い手がいないとなれば、どうなさるおつもりですか!』 『山口、お前は大袈裟だ。髪に隠れるから頭のコブなんざ見えねぇよ』 『千歳はただでさえ間抜けだというに、頭を殴ったら更にまた──』 あ、つい本音が……。 『はじめくんったら酷いっ! 今までわたしのこと馬鹿だと思ってたんだ!』 『いや、そういうつもりじゃなくてな……』 『影ではわたしのことを阿呆で間抜けで、おつむが足りないなんて思ってたんでしょ!』 『いやな、違うんだ千歳……』 千歳の神経を逆撫でてしまい、どうにもこの場の収拾がつかなくなってきた頃、ちょうど近藤さんがひとつポンッと手を叩いて、稽古を再開させると告げた。 『ほら宗次郎、その牛蒡を片して来なさい。一体どこから持って来たんだい?』 『はい、近藤さんこれはですね、近所の百姓から頂いたのです。わざわざ千歳さんと二人で掘りに行ったのですよ』 『それはそれはご苦労だな。なら今晩の夕餉は、きんぴらごぼうを作って貰おう』 悪戯の主犯である宗次郎と、それを注意しなければならない近藤さんの気ままな会話に、土方さんと俺は、同時にため息をこぼした。 『全く、叱る側の人間がこれだから、俺もとやかく言えなくなるじゃねぇかよ』 『それに関しては俺も同感です』 宗次郎と千歳の悪戯のせいで慌ただしかったが、そこからはなんとかいつも通りの稽古に戻っていった。
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