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『人のことをとやかく言う前に、己のことをなんとかしたらどうだ。そんなことをする暇があるのなら稽古に回すべきだろう』
『そうですけど、稽古だって張り合いというものが無くてつまらないのですよ』
『だからこそだ。張り合いが無い時こそ稽古に励み、己の精神と向き合うべきではないのか?』
『堅苦しいなぁ』
宗次郎もこう見えて腕が立つ。道場の稽古では物足りないのだろう。
俺が話して聞かせると、千歳も思うところがあったのか、俺の言う通りだと言い始めた。
『はじめくんはね、毎朝毎晩、木刀を振ってるの。毎日だよ? 宗次郎くんだって見習うべきだと思うな』
『そうなのですか? 千歳さんがそこまで言うのなら私も……』
『そうだ! 稽古を頑張ったら、はじめくんに甘いものをご馳走してもらうってのはどう?』
『それはいいですね!』
『全然良くない』
甘いもので釣るなど、本末転倒ではないか。
そもそも稽古とは、自ら進んでやるものではないか。
『勝手に話を進めるんじゃない。甘いものは絶対に買ってやらぬからな』
「ええー」と二人が口を揃えていたら、良い頃合いに注文していた団子がやっと来た。
『えっと、団子は三本あるので私が一本、千歳さんが一本、はじめくんが……』
『俺はいい。その分は千歳にやる』
そう言えば少し恨めしそうにした宗次郎だが、そこは男として千歳に譲ろうと思ったのか、何も言わなかった。
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