懐かしき悪戯。

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『んー、やっぱり美味しいね』 『そうですね』 本当に美味そうに千歳は食う。 隣で大好物のみたらしを食べるその姿は、見ているこちらまで幸せな気持ちにさせてくれる。 そう栗鼠のように団子を頬張っていた千歳は、いきなりその団子を俺の前に差し出してきた。 『ん? 何だ、食べないのか? 食いかけだぞ、勿体ない』 『違うよ、はじめくんにあげるの』 「俺にあげる」か……、これを? 食いかけで、最後のひとつだけが串に刺さった、このみたらし団子をか? 『言っとくけど、わたしがお裾分けするなんて、そうそう無いからね』 『分かってる』 大好物を人にあげたがらないあの欲張りな千歳が、たとえ食べかけでもくれるとは、滅多に無いことだ。 『有り難く貰うとするか』 『うん、千歳様のお目こぼしなんて有り難いんだから、綺麗に食べてね』 『千歳、あまり調子に乗るなよ』 しかし、思わず笑ってしまう。 人の食べかけを、こうも有り難く頂く日が来るとは。 千歳の大事なものの一部を貰うと考えれば、これも悪くない。 『あっ! はじめくんだけ狡くないですか? 千歳さん、私にも……』 『ご生憎様。宗次郎くんの分は無いの。これはわたしの兄であるはじめくんの特権なんだから』 千歳の何気ない〝兄″という言葉に、団子を食べる手が止まってしまった。 兄か……。 千歳と出会ってから一向に拭えない、兄という言葉に対する違和感。 千歳はやはり、純粋に俺のことを兄と思っているのか……? 『はじめくん食べた? そろそろ帰ろう』 『──あ、ああ』 宗次郎は食うだけ食ってそのまま帰ると、行ってしまった。 これぞまさに食い逃げだ。 俺も代金を払おうとすると、千歳が小間物を見てくると言ったので、すぐに行くと言付けて、送り出す。
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