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その出来事はあまりにも唐突であった。
『千歳を嫁に、ですか？ 母上』
『そうよ。千歳ちゃんもそろそろお嫁に行ってもおかしくない歳だし、丁度いい縁談が来たから承けさせようと思うの』
『ですが、あまりにも突然過ぎやしませんか？ それに相手は……』
その旗本の名は、手が早いことでも有名な好色家だった。
『ええ、分かってる。でもこの際、相手がどうこう言ってられる問題じゃないのよ。相手は旗本様なの。少し歳はいっていると思うけど、是非とも千歳ちゃんを後妻に欲しいと言っているから……』
父上は旗本に仕える身分であるから、その旗本からの縁談となれば断ることも出来ない。
ましてや向こうは、是非千歳をと願っている。
母上や父上としても、断りたくても断れないというところが本音なんだろう。
だが……。
『やはり早急すぎます。千歳は、千歳は何と言っているのですか？』
『……引き受けると』
引き受ける……か。
あいつ、自分の置かれている立場からそう言ったのか。
自分にはこの家と血の繋がりが一切無いからと。
だが、俺達は血の繋がりが無くとも家族同然に過ごしてきたではないか。
この期に及んで遠慮などいらぬのに……。
何としても千歳の本心を聞き出すべく、珍しく一人で試衛館に外出しているという千歳のもとへ向かった。
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