縁談、そして決意。

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『血の繋がりねぇ……。 皮肉なもんだ。詰まるところ血の繋がりがあっても無くても良いことがねぇ。その旗本に断る術は無いのか?』 『千歳が嫌だと言わぬ限り、きっと何をしても無駄でしょう』 千歳の知らぬところで、もう既に相手がいると嘘をつき断ったとしても、いずれ分かってしまうのは目に見えている。 『いっそのこと千歳とお前で、形だけでも既成事実を作っちまうというのはどうだ?』 『無理ですよ。千歳は既に山口家の養子ですから……』 煙草の煙を土方さんは一息に吐き出す。 その煙越しに見える目の前を歩く人達と、俺が今いる場所が隔離されたようで、道行く人の流れが無情にも感じられた。 不意にカンッカンッと、煙草盆に灰を落とす音が鳴り響く。 『やってもみねぇことにケチをつけるなんざ、男の言うことじゃねぇよな。まだ分からねぇだろ。他に出来ることがあるんじゃねぇか?』 『ですが、あったとしても──』 『あいつが嫌だの何だのと言わない限り、お前は動かないつもりなのか?』 『それは……』 『山口、ひとつだけ言わせて貰うが、お前が心底嫌だと言うのなら簡単な話、何をしてでもそれを阻止すればいい。それこそ人を斬ってでもな。 体裁なんざ関係ねぇよ。あいつを想うのなら、それぐらいの意地は見せやがれ』 正直それを言われた時、面食らってしまった。 千歳が否と言わぬ限り、何も出来はしないと思っていた。 しかしそれは違った。 俺は千歳に全てを言わせようとしていたんだ。全ては千歳次第だと。 だから土方さんが言ってくれたことで、情けないと思われてもいい、それでもいいから俺は、千歳に行って欲しくないと言うべきなのだ。
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