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『はじめくん……そこまで考えてくれてたの?』
『当たり前だろ、お前が何も言わずとも気持ちは分かっている。これは俺の我儘だ。お前を嫁に行かせたくは無い。だから俺は俺のやりたいようにやるだけだ』
『わが、まま……?』
千歳がそれでも頑なに嫁に行くと言うのなら、俺は俺の我儘を通すだけのこと。俺のちょっとした欲だ。
しかし、それを聞いた千歳はやはり思うところがあったようで───
『……もし、もしだよ? もし我儘を言っていいのなら、行きたくない……行きたくないよ! やっぱりわたしお嫁に行きたくない!』
『ああ』
『ずっと、ずっと皆と一緒に居たい! 一くんや宗次郎くん、父上や母上、試衛館の皆と居たいよ!』
泣きはしなかったものの、一度出てしまった千歳の悲痛な思いは堰を切ったように溢れだし、俺の心に沁みていく。
『……やっと言ったか、こいつめ。分かっている、俺が何とかしてやるから』
やっぱり俺はその言葉が欲しかったんだ。
千歳の頭を軽く小突くと、罰が悪そうにこちらを見てくるので、俺は精一杯にその小さな体を抱き締めた。
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