義兄妹。

3/5

53人が本棚に入れています
本棚に追加
/59ページ
案の定、陽が落ちて辺りが闇に包まれても、家に帰ろうとする様子は一切見せず、俺の予想は見事当たった。 ……やはりな。 『お前、家はどこだ』 『……家? そんなたいそうなもの、無いよ』 『やはり孤児(みなしご)、なのか?』 その子は何も言わずにただ俯いたままでいたが、暫く沈黙が流れたのち、絞り出すように話し出した。 『……おとっさんとおっかさんは、先の大火で死んじゃったんだ。 身寄りもいなかったし、避難したお寺で世話になってたけど、ずっとそこに居るわけにもいかないでしょ……』 『そうか……』 こればかりは仕方ないだろう。 天災は人が手出しできるようなものじゃない。 空気が乾く真冬に、火事なんてものはよくあることだ。 孤児、そんなものだって珍しくはない。 引き取ってくれる者がいるならまだいいが、いなければ奉公に出るなり仕事を得て、自分ひとりで生きていかねばならない。 そこで会話を終わらせて俺は去ることも出来たが、未だ顔をあげない目の前の、月明かりのように弱々しいその子から、目を離すことが出来なかった。 『俺と、来るか?』 『えっ?』 何故そんな言葉が出たのかと問われれば、未だに俺には答える術が無いのだが、このときは、この子を見捨ててはいけないような気がしたからだろう。 その子はびっくりしたように顔を上げた。 『……っ』 ──途端、時が止まったかのように心の臓がどきりと打った。 初めて見たその顔は、まるで小さな野花のように力強くもあり、尚且つ非力にも見え、俺は初めて抱いた感情に戸惑っていた。
/59ページ

最初のコメントを投稿しよう!

53人が本棚に入れています
本棚に追加