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『千歳はどこへ?』
『それがな……』
試衛館に着いた途端、土方さんは俺を見つけるなり駆け寄ってきた。しかし様子がおかしい。辺りを見渡せば、人々が慌てふためいている。何かが起きたんだ。
俺と土方さんが突っ立っていたところ、近藤さんがそれを見つけて物凄い形相で俺の両肩を掴んで揺らす。
『山口くん!! 本当にすまない!』
『え!? な、これは一体……』
一向に状況が読めない俺は何事かと思った。だって目の前の近藤さんが今にも土下座しそうな勢いだったから。
『あの! 落ち着いてください。一体何があったんです? それに千歳の姿が見当たらない様ですが──』
『千歳ちゃんが見つからないんだ!』
見つからないだけで何をそんなに慌てふためいているのか。千歳がふらっと何処かに行ってしまうことなんて珍しいことじゃない。むしろよくある話だ。きっと何処かで団子でも食っているに違いない。
『そうじゃねぇんだ山口。近藤さんが言ってるのは違う意味の〝居なくなった〟だ。聞いたところによると、千歳の部屋に今まで世話になったと書置きがあったらしい。もう分かるよな?』
『え……』
それは、ともすればもう此処にいる必要が無くなったので出て行きます今までお世話になりましたという意味の書置きなのか。
だが何故だ。出て行ったとしても行くあても無いのに、わざわざ出ていくなんて色々と腑に落ちない。
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