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『本当に申し訳ない。千歳ちゃんを預かった身として頭が上がらない……』
『近藤さんのせいじゃねぇよ。少なからず出て行ったのはあいつの意思でもある。まあ、何か予想外のことが起きた以外はな──』
土方さんの言う通りだ。千歳の身に何かあったに違いない。書置きがあったにせよ、挨拶も無しに出て行くのは、普通ならば里親の近藤さんと仲が悪かったからと考えられるが、近藤さんの様子からしてそんなことは無い。それに俺もそんな様子見たことない。
『土方さん! 千歳さんがいなくなる前に姿を見たという者を見つけました!』
後ろに門弟一人を連れて宗次郎が声を張り上げながらこちらに近づいてきた。その手には何やら紙切れが握られている。
『ここを出ていく前に、千歳さんを迎えに来た男がこの者に文を預けたそうです!』
その文を受け取った土方さんは少し手荒に中を確認すると、大きく目を見開き、すかさず近藤さんにそれを渡した。
『近藤さん、かなり不味いことになった。山口、お前は今すぐ家に戻れ』
『あの土方さん、一体千歳は何処へ? それも知らぬまま戻ることなど出来ません』
『あのな、落ち着いて聞けよ。どうやらあいつは、自分から旗本の所へ行ったらしい』
『え……』
それ以上言葉が出てこなかった。何故自ら嫌がっていた縁談相手のもとになど行くのか。どうして、何故だ。
『な、何かの間違いでは……? その文は千歳を連れ去った男が持ってきたものでしょう? 内容など偽ることは容易いではないですか!』
『ならこの目で確認してみろ』
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