人斬り。

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『ですが父上、例え暗殺が実行されたとしても、身内に協力者がいない限り成功するとは限らないですよ』 『ああ、そうだ。だから言ったではないか。あの旗本の周りの者はほとんど皆呆れ果てていると。一度は暗殺の話がこうして我々に漏れてしまったんだが、誰も旗本に告げ口するような者はいなかった。つまり──』 『周りの者達にとっては死のうが死ぬまいが関係ない、と』 前妻の件もあってから中には旗本を支持しない者が出てきて、その暗殺計画の話を漏れ聞いた途端、それを推し進めようと協力する者も現れたと父上は言った。 だからこの暗殺計画が成功すれば、千歳は嫁に行くことなどせずに済む。 ただ、祝言は待ってはくれない。 祝言が行われる前に計画が実行されなければならない。父上に問うと、明日にでもその幸という前妻の実家を訪ね、どのような状況なのか聞きに行く手筈になっているのだと言った。 『そうでしたか……』 その後は、宗次郎に今聞いた全てを近藤さんに伝えるように頼んで、戸口を出たところで見送った。 *** 次の日。 父上は例の実家へと向かうために、早朝から家を出て行った。 昨夜は寝ようにも眠れず、今千歳がどうなっているのかが気掛かりで、まさか手篭めにされているのではないかとそればかりか頭の中でぐるぐると巡っていた。 結局、眠りについたのは明け方でほんの少ししか眠れなかった。それはどうやら皆同じだったようで、家族全員で目の下に青黒い隈を作っていた。 『まだなのか……』 『さっきからそうしているけど、そんな直ぐには帰ってこないでしょ』 『ですが母上、気が気でなくて──』 というのも、早く報せが聞きたくて、父上の帰りを土間で行ったり来たりを繰り返して今か今かと待っていたからだ。 昨日宗次郎が話を聞いて帰った後、どうやら近藤さんにも伝えてくれたらしくて、今朝一番にわざわざ近藤さんの言伝を預かった宗次郎がやって来た。 その内容は、この件に関しては全てを山口殿に任せると。そして我々に出来ることなら何でも協力するとも近藤さんは言っていたようだった。
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