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『ねぇ、それ本当なの?
一緒について行って本当に大丈夫?』
そう問われたので、俺はすぐ了承すれば、花が咲くようにその子は満面の笑みを浮かべる。
『いいの?』
『俺が勝手に決められることじゃないが、構わない。だって行くところが無いんだろう? 引き取り先が見つかるまでいればいいさ』
『うん……。君ってすごく優しいんだね、仏様に見えちゃうよ。こんな見ず知らずのわたしの為に……、ねぇ、からかっているわけじゃないよね?』
『当たり前だ。からかって何になる』
『……そうだよね、本当にありがとう。ねぇ、名前はなんていうの?』
『俺か? 俺は、はじめだ』
『はじめ……、わたしは千歳っていうの。よろしくね』
『千歳か……』
千年という意味を持つその名前。
そのとき初めて聞いたその名前は、俺にとって一生忘れることの無いものになる。
その名前をしばらく噛み締めていると、この頃からの性分なのだろう、他人に迷惑をかけたくない千歳は、やはり自分は邪魔じゃないか、とひとり心配し始めた。
『わたしをいきなり連れて帰ったら、はじめくんの、おとっさんやおっかさんが、駄目だって言わない?』
『言うかもしれないな。
でも心配することはない。俺の両親は、いい意味で抜けているところがある。きっと大丈夫だ』
『……それって、親としてどうなの』
『まあ大丈夫だ』
俺のその言葉はあながち嘘ではなく、千歳を連れ帰ったら案の定二人は、まるで千歳がいたのが当たり前のように受け入れた。
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