第2話

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たしかにきれいすぎて退屈なのだった。 緻密だけど、あともうすこし深みというか なにか足りない気がする。 けれど、技術は高い。 撮影にしても、プリントにしても。 僕なんていらないくらいに。 「それでも馬鹿な俺は先生に見せたりしたもんだ。 そいつを得意になって。 でも、先生は何も言わない」 「それは僕のときもそうでしたよ。 ワークショップのときも誰のときも」 「まあな。だから、わかんなかったんだけどな。 つまらん写真を撮り続けていたってことが」 先生はなにも言わない。 プロの作品は評することもある。 けれど、僕らアマチュアの作品については、 見ておだやかに笑っているだけなのだ。 僕自身はそれを不満に思ったことはない。 もちろん、はじめは気が抜けたけれども、 見せながら感じることはたくさんあった。 自分の甘さや、足りなさ、誠実でなさ、 そういったものを感じてきた。 先生の無言のなかに。 「俺はさ。先生の作品をプリントしたことなんか、ねえよ」 「え。でも、焼いていたじゃないですか」 「先生の指示した焼き時間や、絞りでな」 「それは僕だって……」 「はじめだけだろ、それは。 俺なんか、二年経っても指示通り。 手足が増えただけだ」 そんな風には思えなかった。 たしかに藤井さんが倒れたときに、 幸運にもはじめからフィルムを扱わせてもらったことは 事実だけど、指示通りに夢中で焼いただけだ。 そのあと藤井さんが復帰してからは、 またフィルムを扱うのは彼の仕事になったし、 僕は撮影の助手だったり、 ファイリング作業あたりしかさせてもらえなかった。 どれほど藤井さんをうらやんでいたか。 「先生と俺がオランダに行っていた間、 お前、焼かせてもらっただろう」 「ああ、田代さんのギャラリーに置くやつ。 でも、あれもすでにオリジナルプリントは先生がやっていたし、 僕がやったのは予約の分……」 「ようするに商品だろうが」 「そうですよ。美術館に置く 作品の分については先生が……」 「ばーか。商品って言ったけどさ。 値段のついた<作品>ってことだよ。 あれを入ってたいして経たないお前が焼いたのを知って、 俺はやめようと思ったね」 僕は黙った。 あのあとすぐ、藤井さんは独立するからやめると 言ってきたのだ。 藤井さんはそのとき自分がやっていた作業については、 なにも言わなかった。 訊いても嫌な顔をするだけで、答えなかった。
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