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「まあ……僕は藤井さんのおかげで、失業しましたしね」
しかたなく、彼の調子に合わせて軽く言う。
「そんなこと、思ってないくせによー」
「思ってますよ。僕にできることはほかにないんですから」
「はは、ほかにない、ときたか」
へらへらと言う藤井さんの顔は、
ちっともへらへらとしていなかった。
僕はどうにも、この人の真意が読めない。
読めないまま、いつも怒らせてしまうと、
彼のちらと睨みつけてきた目に、
また、やってしまったらしいと、目をそらした。
「まあ、いい腕だよな。
デジタルの時代とはいえ、いやだからこそかな。
ああいう職人芸っての?
みんながほしがるのもわかるさ、そりゃ」
「そんなことは……」
「プリンターの腕もあるけどさ、
おまえ、それだけじゃないしさ。
撮影の技術にしても、知識にしても、
しかも頭でっかちでもなくてさ。
感性ってやつも、いい。
おまけに仕事がなんでもできる」
「それは買いかぶりですって」
「ばーか。買いかぶってんのは俺じゃなくて、まわりだよ。
そう言ってんの、みんな」
みんなって誰ですかと訊こうとして、
また彼を怒らせてもいけないと黙った。
彼は質問されることを嫌う。
それだけは、経験上、知っている。
そつがない、とは言われたことがある。
僕はそれを「才能がない」と変換した。
僕ていどの才能なんてごろごろといる。
それは長塚先生のところで、いやというほど知った。
だから藤井さんが言う買いかぶりの言葉は、
僕にとって「たいした才能がない」と
言われているに等しいのだ。
ああ、そういうことを彼が言いたいのならわかる。
ならなぜ、僕のプリンターとしての可能性を
ふさごうとするのだろう。
「みんながほしがるお前を、俺のものにしたい。
というのは、理由になるか」
女じゃあるまいし、と冗談にしようとしたが、
彼の目は笑っていなかった。
「そんなにほしがってませんよ。
たいていの写真家は自分で焼きたいもんですしね。
ほしがるのはとてつもなく忙しい人たちか、
焼くのがもどかしいほどに、撮影したい人」
「ああ、長塚先生のようなね」
「そうですよ。
先生はどこまでも撮り続ける人だったから」
ふいに、玲子さんの持ってきたストレッジボックスの
カラーフィルムのことを思い出す。
大量のなんでもない写真群。
ときおりピントも構図もあっていないものすらある。
歩きながら撮ったみたいなもの。
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