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物思いにふけるように見上げる空。
計算されないハレーション。
なにか一瞬、見えた気もして、
もっとフィルムの中身を思い出そうとした。
「なんていうかさ。
お前のそういうところがいろんな噂を呼ぶんだな」
「噂?」
「お前と長塚先生があやしいとかさ」
「なんですか、それ」
「玲子さんと三角関係ってのもあったな。
お前と玲子さんがあやしくて、長塚先生が荒れたとかさ」
「はあ、好き勝手ですね」
僕はその突拍子もなさに怒るというより、
呆れて笑ってしまった。
「それくらい、お前みたいなやつが
長塚先生一筋ってのが、変なんだ」
「変かな」
「変だよ。長塚先生にしたって、
ずっとお前を置き続けていたのも、変だ」
好きな作家と仕事がしたい。
それがそんなに変なことだろうか。
僕は首をひねる。
「それはでも、藤井さんだって先生のアシスタントをして、
焼いてもいたんだから……」
「たった二年だぜ」
「二年も、ですよ」
その二年間は先生のアシスタントの空きがなかった期間で、
僕はもどかしい思いをした。
藤井さんに嫉妬すらしたのだ。
先生につけないのなら別の道を探そうと、もがいていた。
けれど、そのことは当人には言えない。
「ああ、そうだ」
ふと先生のアトリエで疑問に感じたことを思い出して、
あたりを見渡した。
写真集がまとめてある本棚はすぐに見えるところにあり、
見慣れた長塚先生の写真集は、さすがにすぐ、わかった。
「このあたりでしたっけ。
<ボーダー>。藤井さんがかかわっていたやつ」
写真集を引き出すと、かなりめくったのだろう、
傷みが激しい。
カバーの端は破れてめくれ、手垢で黒ずんでいる。
付箋もたくさんついている。
僕は嬉しくなった。
藤井さんが徳田さんに言ったように、
実際には今まで僕たちは先生の話をしながら
飲んだことはなかったけれど、
そうしてもおかしくはなかったのだ。
「ねえ、藤井さん」
本を持って彼を振り返った。
藤井さんは天井を見上げてビールをあおっている。
「<ボーダー>ね。まあ、そうだな」
「これ、いいですよね。国境地帯を撮ったやつ。
先生はあまりコンセプチュアルなものを撮らないから
珍しいっちゃ珍しいんですけど。
藤井さん、これの撮影について行ったんでしょう」
あのころ、年に数回の先生の講義をただ聴くだけだった。
二年上の藤井さんが先生の撮影についていくために、
半年休んでいるという話をきいて、
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