【第12話】危険な匂い1

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宇崎の妻を轢き逃げした犯人の家に潜入しようと、 故意にぶつけた車の後部は、 トランクがへこんで閉まらなくなり、 遠藤は半開きのまま紐で縛って、 村瀬邸を後にした。 「息子が犯人だということは間違いないとしても、 村瀬夫人はそのことを知らないんじゃないだろうか?」 宇崎は、 倫子(のりこ)に、 いきなり息子のことを聞かれた時の、 夫人の顔を思い浮かべていた。 「顔色ひとつ変えなかったって言いたいんだろ」 半開きのトランクが気になるのだろうか、 遠藤はルームミラーを頻繁に覗きながら言った。 「警察が来た時だって、 平然と応対していたじゃないですか」 村瀬夫人から一報を受けた警察は、 念のため、 三台のパトカーを召集した。 政権をとれば、 首相間違いなしといわれる大物政治家だけに、 まさか自転車の警察官を、 差し向けるわけにもいかなかったのだろうが、 宇崎や倫子も、 「念のため」 という訳の分からぬ理由で、 職務質問された。 しかし、 宇崎にとっては絶好のチャンスである。 もし、 夫人が息子から轢き逃げを打ち明けられていれば、 新聞で被害者の安否ぐらいは確認しているだろう。 宇崎はわざと夫人に聞こえるよう、 大きな声で自らの名前を名乗り、 その顔色をうかがった。
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