【第12話】危険な匂い1

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「新聞には、 僕の名前も出てましたからね。 少しは動揺してもいいはずでしょう」 「甘いな。 相手は大学出たてのドラ息子だぜ。 事件をひとりで背負い込む度胸なんて、 あるもんか。 秘書だかなんだか知らねえが、 そこいらのタレントと遊んでいる位だから、 きっと肩書だけじゃねえのか」 そう言うと、 遠藤はまたルームミラーに目をやり、 後ろをのぞきこんだ。 「私もそう思う」 村瀬邸から出て以来、 ずっと黙り込んでいた倫子が、 ようやく口を開いた。 「どうしてだい?」 「たとえば、 ジャングルのライオンが、 自分のテリトリーで不審な物音を聞いた時、 動揺したりうろたえりするかしら? きっと耳や鼻を研ぎ澄まして、 じっと辺りを警戒するでしょう?」 「お嬢さん、頭がいいね! やつら、無敵だもんな。 どんな敵が現れたって、 せいぜい不意打ち食らわないように、 警戒するぐらいじゃねえか」 「宇崎さん。 警戒の匂いってわかります?」 「警戒の匂い?」 「人間てね、 突然、敵意や警戒を抱くと、 体中の毛穴がぎゅっと引き締まるの。 その時、 毛穴の中の僅かな空気が押し出されて、 匂いを発するんだと思うわ。 もちろん普通の人には嗅ぎ分けられないだろうけど」 「感じたのかい?」 「ええ。 激しい、警戒の匂いだったわ・・・」
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