【第12話】危険な匂い1

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「お嬢さん。 私にもその警戒心の匂いってやつ、 感じないかい?」 遠藤はもうルームミラーを覗き込むこともなく、 まっすぐ前を見ながら言った。 「さっきから、 聞こうと思っていたんです」 「トランク、やばいんですか?」 そう言いながら、 宇崎は後ろを振り向こうとした。 「見ちゃだめだ!」 怒鳴った遠藤の声に驚いて、 倫子も宇崎も、 思わずシートに身を伏せてしまった。 「どうしたんです?」 宇崎は、 助手席と運転席との間からそっと顔を出し、 遠藤を覗き込んだ。 「脅かしてすまない。 気がつかれたと思われたくねえからさ」 「尾行されているんですね」 倫子は、 ゆっくりと体を起こしながら言った。 「ああ。 付かず離れず、 ぴったり尾いて来てるんだ」 「まさか? 尾行したって意味ないですよ。 僕ら職務質問で住所聞かれているし、 遠藤さんだって免許証見せているんでしょう。 それぐらいのこと、 警察からいつだって聞き出せるじゃないですか」 「宇崎さん、確かめてみようか?」 遠藤は、静かに言った。 「この道をもうすぐ行くと空き地がある。 そこでいったん車を止めてドアを開けるから、 降りて小便するふりして、 やつらの車の様子を窺ってみようじゃないか。 どうだい?」 「いいですよ」 どうせ遠藤の思い過ごしに決まっている。 それに、 倫子の前では恥ずかしくて言えなかったが、 宇崎は本当にもよおしていたので、 遠藤の提案には大賛成であった。 「ここだ、宇崎さん」 遠藤は、 ひと気のない空き地の前に車を止めると、 降車側のドアを開けた。
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