【第13話】危険な匂い2

2/5
0人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
「どうする?」 ぴったりと後をつけて来る車を振り返りながら宇崎は、 情けない声で同乗者ふたりに尋ねた。 しかし尋ねた相手は、 初老のタクシー運転手と、 17歳の女子高生だ。 倫子(のりこ)が、 護身のために空手を習っていて、 「全国女子高生黒帯チャンピオン」 だとか、 遠藤が、 映画界ではよく知られた、 「カースタントマン」 だったりするのではないかぎり、 この場で頼れるのは宇崎自身ではないか。 テレビや映画で、 数え切れないほど、 こんなシーンを見ているじゃないか。 心を落ちつかせ、 このピンチを乗り切るには、 どの主人公に習えばいいのか、 宇崎はハリウッドスターたちの顔を思い浮かべていた。 「遠藤さん。 どこか近くの警察に行きましょう」 宇崎が、 ちょうどブルースウィルスの顔を思い浮かべている時、 倫子がそう言った。 名案だ。 なにもカーチェイスをして、 これ以上遠藤の車を痛めつけることはない。 このまま普通に走っていれば、 相手だって手は出せないだろうし、 交番にかけ込めば、 ヤツらだって諦めるにちがいない。 世の脚本家たちは、 どうしてこんな簡単なことを思いつかないのだろう。 「交番だ遠藤さん! あそこで止めよう!」 前に身体を乗り出し、 ひさしの上で回る、 数百メートル先の赤いパトライトを指さして、 宇崎は叫んだ。 「止めてもいいけど、 大丈夫かなぁ・・・」 「まさか警官の前で、 手荒なまねはできないでしょう」     「そうだといいんだが・・・」 遠藤は、 不安ながらも、 ゆっくりとアクセルを緩め、 交番の前に車を止めた。
/5ページ

最初のコメントを投稿しよう!