【第13話】危険な匂い2

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「どうする?」 ぴったりと後をつけて来る車を振り返りながら宇崎は、 情けない声で同乗者ふたりに尋ねた。 しかし尋ねた相手は、 初老のタクシー運転手と、 17歳の女子高生だ。 倫子(のりこ)が、 護身のために空手を習っていて、 「全国女子高生黒帯チャンピオン」 だとか、 遠藤が、 映画界ではよく知られた、 「カースタントマン」 だったりするのではないかぎり、 この場で頼れるのは宇崎自身ではないか。 テレビや映画で、 数え切れないほど、 こんなシーンを見ているじゃないか。 心を落ちつかせ、 このピンチを乗り切るには、 どの主人公に習えばいいのか、 宇崎はハリウッドスターたちの顔を思い浮かべていた。 「遠藤さん。 どこか近くの警察に行きましょう」 宇崎が、 ちょうどブルースウィルスの顔を思い浮かべている時、 倫子がそう言った。 名案だ。 なにもカーチェイスをして、 これ以上遠藤の車を痛めつけることはない。 このまま普通に走っていれば、 相手だって手は出せないだろうし、 交番にかけ込めば、 ヤツらだって諦めるにちがいない。 世の脚本家たちは、 どうしてこんな簡単なことを思いつかないのだろう。 「交番だ遠藤さん! あそこで止めよう!」 前に身体を乗り出し、 ひさしの上で回る、 数百メートル先の赤いパトライトを指さして、 宇崎は叫んだ。 「止めてもいいけど、 大丈夫かなぁ・・・」 「まさか警官の前で、 手荒なまねはできないでしょう」     「そうだといいんだが・・・」 遠藤は、 不安ながらも、 ゆっくりとアクセルを緩め、 交番の前に車を止めた。
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