【第14話】危険な匂い3

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世の中には、 危険な匂いというものが数多くある。 その中で最も代表的なのは、 都市ガスの匂いだ。 あの匂いを嗅ぐと多くの人は、 途端に息苦しくなり、 慌てて換気扇を回したり、 窓を開けたりしてしまう。 もうだいぶ前から、 都市ガスは天然ガスに切り替えられ、 かつてのような中毒事故は、 起きにくくなっているそうだが、 身についた習性は、 そう簡単には切り替えられない。 頭ではわかっていても、 体が拒絶反応を起こしてしまうのだから、 人とは実にややこしい生きものだ。 「さあ!しっかりつかまって!」 倫子(のりこ)と宇崎を乗せたタクシーは、 二車線の道を抜け、 四車線の広い道に出ようとしていた。 追手はすぐそこまで迫っている。 追い越され、 行く手を阻まれたら、 どんな危険が待っているかもしれない。 タクシードライバー遠藤は、 常日頃の鬱憤を晴らすかのように、 アクセルを一気に踏み込むと、 追手を蹴散らすように加速した。 「遠藤さん、相手はベンツですよ! 大丈夫ですか!?」 馬力も排気量も格段に違う追手の車に、 カーチェイスなんか仕掛けて、 はたして勝ち目があるのだろうか? 宇崎は、 ドアの上の取手を握りしめ、 足を突っ張らせて、 すっかりジェームスボンドになりきる遠藤に聞いた。 「宇崎さん、 国産車だって、 やるときゃやりますぜ!」 制限速度をややオーバーして走る車をすり抜け、 捕まれば確実に免停のスピードで愛車を操りながら、 遠藤は言った。 「本当よ! 見て宇崎さん! どんどん離している! がんばって遠藤さん!」 「まかせときやがれ!」 気分は洋画だが、 口調はすっかり時代劇になっている遠藤は、 若いベッピンの娘に励まされ、 さらにアクセルを踏み込んだ。
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