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世の中には、
危険な匂いというものが数多くある。
その中で最も代表的なのは、
都市ガスの匂いだ。
あの匂いを嗅ぐと多くの人は、
途端に息苦しくなり、
慌てて換気扇を回したり、
窓を開けたりしてしまう。
もうだいぶ前から、
都市ガスは天然ガスに切り替えられ、
かつてのような中毒事故は、
起きにくくなっているそうだが、
身についた習性は、
そう簡単には切り替えられない。
頭ではわかっていても、
体が拒絶反応を起こしてしまうのだから、
人とは実にややこしい生きものだ。
「さあ!しっかりつかまって!」
倫子(のりこ)と宇崎を乗せたタクシーは、
二車線の道を抜け、
四車線の広い道に出ようとしていた。
追手はすぐそこまで迫っている。
追い越され、
行く手を阻まれたら、
どんな危険が待っているかもしれない。
タクシードライバー遠藤は、
常日頃の鬱憤を晴らすかのように、
アクセルを一気に踏み込むと、
追手を蹴散らすように加速した。
「遠藤さん、相手はベンツですよ!
大丈夫ですか!?」
馬力も排気量も格段に違う追手の車に、
カーチェイスなんか仕掛けて、
はたして勝ち目があるのだろうか?
宇崎は、
ドアの上の取手を握りしめ、
足を突っ張らせて、
すっかりジェームスボンドになりきる遠藤に聞いた。
「宇崎さん、
国産車だって、
やるときゃやりますぜ!」
制限速度をややオーバーして走る車をすり抜け、
捕まれば確実に免停のスピードで愛車を操りながら、
遠藤は言った。
「本当よ!
見て宇崎さん!
どんどん離している!
がんばって遠藤さん!」
「まかせときやがれ!」
気分は洋画だが、
口調はすっかり時代劇になっている遠藤は、
若いベッピンの娘に励まされ、
さらにアクセルを踏み込んだ。
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