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「・・・はい、世田谷通りを下っています。
所轄の署に・・・。
えっ??どうしてですか?
・・・しかし、
とりあえず止めて職務質問だけでも・・・。
そうですか、
わかりました。
失礼します」
本村巡査は、
離れすぎた眉毛を精一杯寄せて、
電話を置いた。
「後ろの車だけでも止めておけばよかった・・・」
顔や身なりで人を判断しないよう、
常日頃、
心がけている木村だが、
それにしても、
タクシーを追いかけるように走っていったベンツの連中は、
なんとなく殺気が漂っていた。
それに、
タクシーの後部座席にチラッと見えた美少女は、
なにかに怯えているようだったので、
万一に備え、
署に電話を入れてみた。
しかし、
ベンツのナンバーを本庁に伝えが、
しばらく待たされた後、
「気の回しすぎだ」
と言って、
電話を切られてしまった。
「何か匂うぞ・・・」
その穏和な顔からは想像できないほど、
本村巡査は嗅覚が優れていた。
といっても、
倫子が発揮する嗅覚ではなく、
事件を嗅ぎつける職業的勘だ。
つい先日も、
身なりはいかにも紳士風の男が、
住宅街をうろついていたので、
職務質問をしたところ、
全国に指名手配されている、
空き巣の常習犯だった。
顔や身なりで惑わされぬよう、
常日頃心がけている本村巡査だった。
「今なら、追いつくかもしれないな・・・」
本村巡査は、
テーブルの上に、
『巡回中』
の札を立て、
交番の脇に止めてあるカブに飛び乗り、
颯爽と世田谷通りを西に向かって発進した。
「お嬢さん、
今、助けに行きますからね!
それまで、
どうかご無事で!」
ガラス越しでも、
十分かわいかったその女の子の顔を思い浮かべながら、
本村巡査もまた、
気分はすっかり洋画のヒーローだった。
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