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チャイムが鳴り、インターフォンのカメラに最後の客が映った。
私は無言のまま、玄関の扉を開けた。
「こんばんは。結局……間に合いませんでした」
彼女はそう言うと、寂しそうに下唇を咬んだ。
私はその言葉に「うん」と小さく頷くと、彼女を部屋へと招き入れた。
室内には、丁度良くラベンダーの香りが満ちている。
私は彼女をソファーに座らせると、私ブレンドのオリジナルハーブティーを勧めた。
暫く世間話をして体が温まるのを待つ。
「気分はどう?」
「はい。とても良いです」
「もう一度確認するわ。本当に気持ちは変わらない?」
私のその最後の問い掛けに、彼女は笑顔で頷いて見せた。
これで決まった。
私は彼女の座るソファーを二段階程リクライニングさせると、彼女の顔の前に自分の手を翳した。
すると彼女が突如私の手を両手でシッカリと握った。
一瞬キョトンとした私に、
「ごめんなさい。私のせいで彩音さんは」
そう言い掛けた彼女を私は制止した。
「心配しないで。本望よ」
それを聞き彼女はもう一度微笑むと、今度はゆっくりと安心したように私の誘う世界に引き込まれて行った。
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