【第15話】心の匂い

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「宇崎さん、 私はね、 今まで自分にこんな力があって、 良かったなんて思っこと、 一度もなかったの。 人の匂いって、 その人の生活そのままなのよ。 その日なにを食べて、 どんなところに行って、 どんな人と会って、 何をしたのか、 体に一つ一つ染みついていくの。 それだけじゃない、 嘘ついてたり、 私のことを見て変なことを想像したり、 とにかく相手が発する匂いを嗅ぐだけで、 考えていることまでわかっちゃうの。 まるで人の心を覗き見ているみたいで、 すごくいやだった・・・。 でも今日は違う。 やっと私の能力が、 人の役に立つ時がきた。 お願い宇崎さん。 どこまで役に立てるか、 わからないけど、 試してみたいの」 「・・・わかった。 頼りにしてるよ」 宇崎は、 ひとりで行くと格好をつけたものの、 実はなにをどうしていいかわからず、 途方に暮れていたのだった。 「そういうことならお嬢さん、 道案内、頼んだぜ!」 「はい!」 ふたたび愛車のエンジンをかけようとした遠藤は、 ふとあることを思い出し、 顔を真っ赤にして俯いてしまった。 最初に二人が車に乗り込んできた時、 ただならぬ関係と勘違いし、 ふたりのあらぬ姿を、 一瞬想像していたのだ。 「どうしたんですか?」 いつまでも発進しないので、 宇崎は遠藤の顔を覗き込む。 倫子は、 できるだけ遠藤が傷付かないように言った。 「気にしないで、遠藤さん」 そう言って、 優しく遠藤の肩に手を置いた倫子の横顔が近すぎて、 今度は宇崎が危うくあらぬことを想像しかけ、 思わず首を振って、 それを振り払っていた・・・。
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