【第15話】心の匂い

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「もう大丈夫じゃねえか」 遠藤は、 意地の悪い教官にさんざんしごかれた、 教習所の生徒のように車をゆっくり塀に寄せ、 エンジンを切った。 「もう追ってきませんかね?」 宇崎は心配そうに後ろを振り向いた。 「どうだね、お嬢さん。 どんな色かわからねえが、 ヤツらの匂いは、 もう近づいちゃ来ねえだろう」 「・・・遠ざかっています」 「まあ、 どんなに勘のいいやつが、 運転していたとしてもだ、 ここまでは追ってはこれねぇな」 「どうしてです?」 「言っただろう、 国産車だってやるときゃやるぜって。 T字路だの十字路だの、 数え切れないほど曲がっただろ。 あのごっつい外車じゃ、 半分も曲がれるところはなかっただろうよ。 入ってきた道は一方通行だし、 今頃戻るに戻れなくて、 同じ道をグルグル回ってるんじゃねえかな」 入り口は入れても、 出口は先細り、 進むに進めず、 戻るに戻れず、 立ち往生。 そんな姿を想像すると、 さっきまでは、 サスペンス映画の殺人者に見えた彼らも、 まるで三流コメディーのまぬけな悪党に見えてくる。 きっと今頃、 車の中では、 互いのドジぶりをあげつらい、 小突きあっているのではないだろうか。
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