【第15話】心の匂い

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「さあ、どうする? とりあえず追手は巻いたし、 映画なら、 主人公とヒロインのラブシーンってところかな」 そう言いながらも遠藤は、 倫子と同い年の娘を持つ父親として、 そんなことは絶対に許さないと心に決めていた。 「宇崎さん。 奥さんを轢き逃げしたのは、 あの代議士の息子さんに、 間違いないと思うの」 「もちろん僕だってそう思う。 でも、 いくら人相の悪いヤツらに追いかけられたからって、 警察じゃ取り合ってくれないだろうな。 やっぱり、 なにか確かな証拠がないと」 「だからその証拠を見つけに行きましょうよ」 「行くって?」 「戻るの。 もう一度村瀬代議士のお宅に行って、 揺さぶりをかけましょう。 うまくすれば、 息子さんも戻っているかもしれないわ」 「虎穴に入らずんば虎子を得ずってやつだ。 お嬢さん、勇ましいね」 「無謀だな。 危険すぎるよ」 「人相の悪いおじさんたちは、 当分この町内会から脱出できないだろうし、 かえってチャンスじゃないかしら?」 「でもこれ以上、 君を危ない目に遭わすわけにはいかない。 行くんだったら僕ひとりで行く」 「そうだよ。 お嬢さんになにかあったら、 親御さんに申し訳がたたないぜ」 これがもし自分の娘でなにかあったら、 宇崎の華奢な体の背骨を、 裏返して真っ二つに折り曲げ、 右足を電柱に縛り付け、 左足を車に縛り付けて、 一気に百メートルを疾走しても、 気が収まらないだろうと遠藤は思った。
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