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「さあ、どうする?
とりあえず追手は巻いたし、
映画なら、
主人公とヒロインのラブシーンってところかな」
そう言いながらも遠藤は、
倫子と同い年の娘を持つ父親として、
そんなことは絶対に許さないと心に決めていた。
「宇崎さん。
奥さんを轢き逃げしたのは、
あの代議士の息子さんに、
間違いないと思うの」
「もちろん僕だってそう思う。
でも、
いくら人相の悪いヤツらに追いかけられたからって、
警察じゃ取り合ってくれないだろうな。
やっぱり、
なにか確かな証拠がないと」
「だからその証拠を見つけに行きましょうよ」
「行くって?」
「戻るの。
もう一度村瀬代議士のお宅に行って、
揺さぶりをかけましょう。
うまくすれば、
息子さんも戻っているかもしれないわ」
「虎穴に入らずんば虎子を得ずってやつだ。
お嬢さん、勇ましいね」
「無謀だな。
危険すぎるよ」
「人相の悪いおじさんたちは、
当分この町内会から脱出できないだろうし、
かえってチャンスじゃないかしら?」
「でもこれ以上、
君を危ない目に遭わすわけにはいかない。
行くんだったら僕ひとりで行く」
「そうだよ。
お嬢さんになにかあったら、
親御さんに申し訳がたたないぜ」
これがもし自分の娘でなにかあったら、
宇崎の華奢な体の背骨を、
裏返して真っ二つに折り曲げ、
右足を電柱に縛り付け、
左足を車に縛り付けて、
一気に百メートルを疾走しても、
気が収まらないだろうと遠藤は思った。
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