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ふと、あたしは足を、もとい、浮遊移動を止めた。
それは視界の片隅に何か黄色いものが見えたからで、そしてそれが何故か気になったからだ。
視線を下へと移す。
見れば、そこにはあたしが所属するマフィアと敵対関係にあるギャング――の、ドンと呼ばれていた少年が立っていた。
あたしはしゃがみ、視線を合わせる。
「おや、あなたはtigreのドンさんじゃあないか。見たところ護衛はいないみたいだけど――こんな所でどうしたんだい?」
あくまでも笑顔で言うあたし。
あたしの笑顔は何故か良く怖いと言われるのだが、なあに大丈夫。あたしは怖くない。
なにせあたしは優しいお姉さんなのだから。
「キミは――dragoのトラウマか。……別に何も。キミこそどうしたんだ?」
あたしのそんな何気ない質問に答えたその声は、明らかに警戒の色が窺えた。まるであたしを迫害した奴らみたいだ。
恐らく、敵対している組織の構成員の一人が、気安く話し掛けているからかもしれないが――……そんなにあたしの笑顔は怖いのだろうか。
「あら、名前を覚えて頂いているとはありがたいね。あたしは散歩だよ、さ、ん、ぽ。特にやる事もないからね。本当は知り合いの様子を見に行こうかと思ったんだけど――あなたがあたしの前にいて丁度良かった。ちょっとあたしの話を聞いてくれよ」
「嫌だ。何故敵であるキミの話を聞かないといけないんだ」
言って、ぷいっとあたしから顔を背けてとてとてと歩いて行ってしまおうとするtigreのドン。
なんだあれ、可愛いな。
……っと、そんな事思っている場合じゃない。あたしは浮遊移動を再開し、tigreのドンの後ろを着いていく。
――我ながら幽霊のようだ。
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