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人もまばらな終電に揺られながら、佳奈はぼんやりと流れゆく街を眺めた。
…ああ、疲れた。
泥のように眠りたい。
そうは言ってもまだ週の半ば。
社会がそれを許さない。
エディトリアルデザイナーを目指し、デザイン事務所に就職して六年。
最初こそ「何となくカッコイイから」という理由で興味を持ったが、今ではやりがいを感じて仕事に打ち込んでいた。
仕事は楽しい。
しかし過酷だった。
正面の窓に仕事から解放された覇気のない自分が映る。
ああ、だらしない座り方。
猫背だし。
髪なんかパサついてる。
目が虚ろで感じ悪い。
うん、女子力低い。
まるで他人事のように自分を批評し終えると、嫌いな上司がよくやるような盛大な溜め息が出た。
仕事に潰される私生活。
癒やしは自分のベッド。
そんな人生、虚しすぎる、と友人は言う。
そんな佳奈だが、彼氏がいた。
今から帰るところに。
二つ年下の悠也と同棲して三年。
お互い空気のような存在になりつつあるが、佳奈は確かに彼を好きだった。
しかし上手くいっているのかと聞かれれば「わからない」と答えるだろう。
時間が合えば一緒に食事を摂るくらいで、揃って出掛ける事も無いから休日も合わせてない。
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