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最後に「好き」という言葉を口にしたのが遥か昔の事のような気さえする。
このままではマズい。
そんなことを考えてはみるが、いつも疲労に負けて思考を中断する羽目になる。
「ふぁ…」
佳奈は口元も隠さず豪快に欠伸をした。
誰も気にする素振りを見せないのは、乗客皆が同じ気持ちだからだろう。
白い息を吐きながら駅からマンションへの道を歩く。
歩きながらお腹が鳴り、そこで夕飯を摂ってなかった事を思い出した。
…暖かい部屋で赤ワイン飲みたい。
美味しいフレンチ食べたい。
平日の遅い時間に非現実的な事を考えていれば、それをたしなめるかのように一月の冷たい風が佳奈の脚を撫でる。
脚を止めて、何となく空に目を向けた。
空気が澄んで良く晴れていたが、街が明るくて星は見えない。
止まって損した、と佳奈は内心毒づいた。
コートの襟をぐっと掴んで肩を竦め、寒さから逃れるように近くのコンビニに飛び込んで缶チューハイを一本買った。
彼のものも何か、とは思ったが、こんな時間なら悠也はもう寝ているかもしれない。
比較的時間に余裕を持てる会社に勤める悠也と、不規則極まりない会社に勤める佳奈。
それが普通になってしまったから、寂しいとは思わなかった。
そんな自分は女として如何なものか。
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