三年目の、

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  カーテンの隙間から冷えた部屋に街灯の灯りが漏れる。 佳奈はそれを初めて綺麗だと思った。 「…二年と、一日遅れになっちゃったけど」 佳奈の背後から伸びる悠也の掌には、キラキラ光る小さな石の付いた指輪があった。 佳奈の左手を取り、それを薬指に押し込む。 「やっと渡せた」 声は、ぴったりと張り付いた素肌から振動で伝わった。 「…カレー記念日?」 「うん。一生カレー記念日」 悠也の不器用なプロポーズに、佳奈は背中から抱きすくめられながら気恥ずかしそうに笑う。 お互い大切な事を言いそびれる人間だけど、こういうのも良いと思った。 「好きだよ」 「うん」 「来年も作ってね」 「うん」 「…好きだよ」 白んできた空に焦る気持ちはなく、まだ部屋に残るカレーの匂いに酔いしれる。 来年も再来年も。 これからはこうやって二人でカレーを食べながら年を重ねていくんだろう。 癒しだと思っていた布団より、年に一度のカレーが何よりのご褒美になるだろう。 …全てを大切にしよう。 佳奈も指輪に誓った。  
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