晩餐

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 ぐしゃり。  ふたつの音が重なった。  ひとつはテレビから聞こえた。  女性アナウンサーの端正な眉がぴくりと動く。  しかし、ぷるりと潤った唇は動揺を隠すように、何事も無かったかのように言葉を紡ぐ。  ネット上では、井伊直弼の子孫であるアナウンサーということで、「大老」なんてあだ名で呼ばれることもあるアナウンサーだ。  毎日、命が潰れる音がする。  平和ボケ国家として名高い日本でさえ、日に日に自殺者の数は増加する。  死の選択について考えるようになっている。  どうせ死ぬのだ。  12月25日に、すべてが終わる。  死が決まっているのであれば、せめてその形くらい自由でありたい。  なんて自由主義の鏡じゃないか。  もちろん、僕もそのひとりだ。  どうせならやりたいことをやってから死にたいだろう?  しかも、みんな死ぬんだよ。  こんな大義名分、他にはない。
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