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「着きました」
わたしはふわりと浮いた体を下ろします。
自分にしては品質の良い服を来て、ダサいと言われた髪の毛もシュッとさせて、いつもの猫背を治せば美少女の出来上がり……ならず。
ならないものはならないなりに、可愛げというものでカバーしようとするも、そんなものには全く興味のない私としては、どんなに身切れに着飾ったところで、都会に憧れる田舎学生が上京してきましたといった体しか取れない。
もっともわたしは、悪魔なのですが。
身の回りにあるもの全てがキラキラと輝いているようにみえる新宿の駅前。正しくは新宿アルタ前というそうでありますが。とにかくまあ、夜だというのに人が人が人が。
こうも人間さんがたくさんいると、自分が悪魔だということがバレやしないかと思ってしまうわけで、きょろきょろと周りを見回しておりますと都会に出てきたばかりの田舎学生なのではないかと思われてしまうわけで、そうなりますとキャッチなんかに引っかかる割合というものが飛び抜け急上昇というわけなのでありました。
私は悪魔的に悪魔のイメージなりに胸を張って、そういうのはお断りオーラを出しているつもりなのですが、残念ながら人間さんには全く効果が無いようです。どっとはらい。
月明かりになびく自分の髪の毛を眺めながら私は、ああなんと素敵な光なのだろうと思いました。月光というのはその大変結構なお手前で、浴びているだけで神秘的なエネルギーというものが上昇してきそうです。世界に多数いる狼男という人種さんは月光を浴びることによってその体が狼へと変貌してしまうそうですが、さもありなん。
繰り返しになりますがここは新宿の駅前、目標地点は京王線新宿駅から特急電車に乗って、数駅で辿り着く京王八王子駅……からしばらく歩いたJRの八王子駅。なぜ悪魔がそんな電車に乗らなければならないのかともうしますと、私は割合出来ない社員でありまして地上に出張する際に支給されるお金が勿体ないと言われました。しかしながら地上から人間さんたちの言うところのオカルト的なエネルギーを貰うために出向しなければならず、そうするために他の悪魔さんたちに連れて行って貰うことにしたのでした。
そうして辿り着いたのが目標地点からしばらくの新宿アルタ前なのです。
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