第1話

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 ちなみに私の向かわなければならないのは京王線改札口のある京王西口です。なぜこんなところにいるのかと申しますと。 「迷いました……」  完膚なき迷子。  これでお腹でもきゅうっと鳴ればさもしい孤独な少女の出来上がりです。  新宿駅は日本でも有数の迷いやすい液だとは悪魔の世界でも有名ではありましたが、なんということでしょう。看板を見ながら歩いてきたというのに、京王線改札がある場所から全くの反対方向に来てしまったのでした。  いったいどこで間違えてしまったのでしょう。 「あの……」 「ウェイヒ!?」  振り返れば人間さんの姿がががががが。  今の私はちょっと品の良い服を着た田舎少女(みたいな感じ)で、声をかけられるのはキャッチを除いては初めて。  あの、がどのあの、なのかは分からないけれどわたしに話しかけているのはきっと間違いない恐らくきっとあのう……。 「もしかして、迷子ですか?」 「何故わかったのですか!?」  驚きました。  人間さんの中で超能力者といえば、エスパー伊藤かユリ・ゲラーかという話ではありましたが、普通の人間さんにも超常的な力を持っているではないですか。  は! そういえば携帯の待ち受け画面に美輪明宏なる人物を設定すると、幸福が舞い降りてくるという話が悪魔のネットワークの中で伝わったのを思い出します。  ……ちょっとだけ外見が異なりますが、この人は美輪明宏なる人物か、それとも美輪明宏なる人物の血縁者なのではあるまいか。 「もしかして……美輪明宏さんですか?」 「加藤です」 「……加藤明宏さん?」 「美輪明宏さんとは全く関係のない人です」  なんとぉー!  私は人間さんにとって絶大なネームバリューを誇るメフィストフェレスですか、とか言われたら、いい笑顔で、はいメフィスト的なものですと答えるようにしています。悪魔の中でも大悪魔のメフィストフェレスは、いわば悪魔オブ悪魔なので、悪魔的少女の私からしても、悪魔……あれ? 「えーっと、プリーズセットタイム、プリーズ」 「では深呼吸しましょう」 「イエス、アイドゥー」  わたしは何度か深呼吸を繰り返して、自分の気持を落ち着けます。  まず自分は迷子です。  そして私はメフィストフェレスさんとは何の関係もない悪魔です。  悪魔ということはあまりターゲット以外の人間さんとは関わってはならない決まりがあるものです。
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