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「見付からない。もしかして人間が狩り尽くした?」
空腹のストレスで人間に訳の分からない濡れ衣を着せながら漆黒龍は森を歩く。
冬の近付くこの季節。漆黒龍が探す獲物は暖かい地を求めて大移動しているのだが、漆黒龍はその事を知らない。
漆黒龍の耳に人間の怒声と、魔物の唸り声が聴こえる。
行く先が決まった。
どうしてこうなったと自問し、自業自得だと自答する。
そうだ、自分の我が儘でこうなったのだ。自分の我が儘のせいで護衛の者を何人も死なせてしまった。
自分のせいで、無意味に、だ。
なのに何故自分は自らの体を抱き締め震え踞っているのだろうか?
決まっている。自分が弱いからだ。
少女は涙を溜めながら伏せていた顔を上げる。
そこに怒声を上げ、勇ましく魔物に切りかかった者の血が降り注いだ。
顔に掛かるべっとりと生暖かい血潮。その熱が自分の体温と混ざっていく事に、まるで降り掛かった血が体の中に入り込んだような錯覚に、少女はぞっとする。
「ぃ、いや……っ!」
魔物が近付く。少女は恐怖のあまり上手く力が入らない手を持ち上げ、弱々しい抵抗を示した。
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