宿題

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 史絵(しえ)が、泣いている。  父親に似て、7才の女の子にしては大柄な体で、投げ出した足をバタバタと暴れさせて泣いている。 「プリティ5のピンクファースト、買ってくれるってさっき言ったのに!ウソつき!ママのウソつきぃ!」  子供特有の遠慮のない泣き声が、狭い部屋の中を跳ね回る。  壁の薄いアパートだから、以前なら隣の部屋に気兼ねして、誤魔化してなだめようとしただろう。  けれど両隣とも、今は住人がいない。  世界の終わりを前にして、皆どこに行ってしまったのか。  いつの間にか、このアパートから人気は無くなり、今住んでいるのは、自分たち親子と下の階の老夫婦だけだった。  普段は聞き分けがいい娘なのに、1度癇癪を起こすと、なかなか収まらない。 「いい加減にしなさい」  炬燵テーブルの上に突っ伏していた顔を少し上げて、真希(まき)は娘に言うともなしに、低い声でつぶやいた。  泣いても喚いても反応しなかった母親が、たとえ少しでも声を出してくれたことで、娘はここぞとばかりに自己主張をし始める。 「買ってくれるって、ママ花火見たあとに言ったもん!流れ星のかわりに、お願い聞いてくれるって言ったもんっ!」
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