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史絵は大きな目を真っ赤にして、泣いている癖に、やたらとはっきりした滑舌だ。
歳のわりにしっかりした子だ、と周りは誉めてくれるけれど、それが今、煩わしく感じるのは、自分を置いていった男に、娘があまりにも似ているせいかもしれない。
「じゃあ、買ってあげるね、ピンクファースト。ママが流れ星になってあげる。明日クリスマスだから、また明日お出かけしようね」
帰り道で、思いもかけず冬の花火を見て、少し浮かれたついでに約束したのは本当だ。
『どうせ死んじゃうんだし』
そんな娘の言葉を軽く受けた位だから、“世界の終わり” なんて、実は実感が無かったんだろう。
明日も明後日も、その先も、ただ日々が続いていくような錯覚は、1通の手紙で、見事にパラリと打ち砕かれた。
* * *
真希へ
この手紙は、ちゃんと届くのかな
最後に、君と史絵に、きちんと謝りたかった。
勝手な僕を、許してくれとは言わないけれど、せめて最後の時に、少しでもいいから思い出して欲しい。
ひどい男で、ごめん。
貴裕
* * *
「ママぁ…ねえ、ママってばぁ!ウソはいけないって、ママが言ったんだよ!ねえママ、ねえ」
「……うるさいっ!!」
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