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まったく、世の中には馬鹿なことを考えるやつがいるものだ。もしかしたら、松永もこんな馬鹿なことを考えていたのかなと想像した。しかし彼がそんな人間ではないことを武内が一番よく知っていた。
「部長。僕はあなたを恨みます」
「恨まれる筋合いはない。俺は職務を全うしただけだ」
目を血走らせて退職願をデスクに置く松永の姿を思いだした。若く、まだ幼さを残した顔を真っ赤にし、握り締めた拳には血管が浮き出ていた。よほど憎かったのだろう。最後は涙を浮かべながら、逃げるように去っていった。
武内は煙草を吸おうと口元まで運ぶが、灰が指先まできていることに気付いた。
こんな調子では仕事にならないな……。
頭を振って報告書へと向かうが、悪戯に時間を浪費するだけだった。
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