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第1話 猫カフェの猫
『では続いて、地域情報です!』
――堅苦しい全国区のニュースが終わり地域版に切り替わったせいか、やたらテンションの高い明るめの声が耳に障った。
目を薄く開け音につられるように画面を見たが、すぐに興味をなくしてまたユウジの膝に落ち着く。
『こちらの猫カフェ。ついに最後の1匹も失踪してしまいました』
「……猫」
BGM代わり程度に流れていたテレビが、その言葉ひとつでユウジの興味を引く。
頭を撫でてくれていた手がぴたりと止まった。
睨みつけて抗議の声をあげると、分かったよとでも言いたげな苦笑でまた手が動き出す。
「ケイト。どんどん消えていくね?」
上から降ってきた声は、暗く沈んでいた。
「最期は自由になりたいのかな。……お前も?」
――それは違うよ、ユウジ。
「ん? なんだいケイト。お腹減った?」
そう言うと、私を抱えたままユウジは立ち上がる。
キッチンへ向かい、私のためのご馳走が載った皿を取るとまた定位置に戻る。
目の前に置かれた大好物の卵焼きを見て、私は少し悲しくなった。
「ケイト」
ひと撫で、そして膝から降ろされる。
「さ、お食べ」
ユウジは優しい。
私はこのヒトに、傷ついて欲しくないと思っている。
知らない方が幸せな事もあるのだろう。
だから、言葉が通じないことを、この場合幸運と考えるべきなのかもしれない。
「ケイト」
促されるまま食事に噛り付いた私の顔を覗きこむようにして、ユウジはまた私を呼んだ。
「最期の日まで、ずっと一緒にいよう」
――私も、出来ることならそうしたいと思っているよ。
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