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何を言ってるの、このヒト。
パパ、ママ、マユミ、助けて。
さらわれちゃう。
早く助けに来て、ボクも一緒に夢の国へ!
『めそめそすんじゃないよ! それでも男かい、情けない』
逃げなきゃ、早く、食べられちゃう。
でも、柔らかい毛布の敷かれたゲージの一歩外は、フローリングでもカーペットでも畳でもない。
見たこともない、ゴツゴツした、冷え冷えしたソレに足をつけたら最後、ボクは動けなくなってしまうかもしれない。
怖くて怖くて、身体がぷるぷると震えた。
『アンタ、内猫? もしかして外初めてなの?』
めんどくさそうなため息、でも声は、急に優しくなった。
『可哀相に、こんな瀬戸際で捨てられたか。名前は?』
――捨てられた。
そうか、ボクは捨てられたんだ。
家族じゃないから。
だから、夢の国へは連れて行ってもらえない。
名前、なんて。
『名前も一緒に、捨てられちゃった』
巨大な姐さんは、そうか、とひと言、スマートじゃない顔を余計にくしゃくしゃにした。
世間知らずなボクに、そのお節介な姐さんが色々と教えてくれる。
もうすぐボクたちはみんな死んじゃうけど、その前に人間がいないどこかへ、隠れないといけないらしい。
『どこかってどこへ? ボク、ボクの家……だったところ以外、どこも知らない』
『大丈夫、アタシが連れてってやる』
ボクはボクの家族より、この大きくて顔が怖くて口の悪い姐さんを信じようと思った。
だってボクが家族だと思っていたヒトたちはボクを簡単に捨てていったけど、姐さんはめんどくさがりながらも、親切にしてくれたから。
『ほら、人間に気付かれる前に、早く――……』
姐さんの言葉が一瞬詰まった。
それからすぐに、気配が消えた。
『ちょっとだけ大人しく待ってろ』
小声でそう残して、姐さんは植え込みに身を潜めたみたいだった。
「ラッキー?」
ゲージの前で足を止めたおじさんが、知らない名前を呼びかけながら身を屈めた。
「……なわけ、ないか。アイツはもう、行ってしまった」
独り言、に続いて、さみしそうなため息。
それからおじさんは、ボクに向かって語りかけた。
「口の悪い太った可愛げない女の子、見なかったかなぁ、キミ」
――それは、もしかして
「ああ、可愛げないって言ってもね。本当はとても優しい子なんだけど。ひどいあまのじゃくでね」
姐さんの、ことなんじゃ?
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