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ボクが迷っている内に、おじさんは「知るわけないか」と勝手に決めつけて話を変えてしまった。
「キミ、うちに来るかい? 寒いだろう。もうすぐ雪も降り出すらしい」
おじさんはゲージを開けて手を伸ばし、ボクを抱き上げる。
姐さんの言葉通りなら、ボクはおじさんに連れて行かれるわけにはいかなかった。
暴れようにも、おじさんの手はあまりにも大きくて、ボクの身体はあまりにも小さい。
ダメかもしれない、と諦めかけた時、
「……やっぱり、嫌だよね。キミはとても家族に愛されていたようだもの」
ふわりとゲージに戻された。
おじさんの片手には、いつの間にか白い紙が握られている。
「キミの家族からの手紙だ」
ぽん、とボクの頭をひと撫でして、立ち上がったおじさんの声は離れていく。
「間に合うものならば、戻ってあげてほしい。『タイヨウ』」
太陽。
それは確かにボクの、捨てられてしまったはずの、名前だった。
「タイヨウ、ラッキースターに会ったら伝えて欲しい。僕は最期まで待っていると」
おじさんの姿が見えなくなるまで、姐さんは決して動かなかった。
『お前、字読めねえのか』
しばらくしてからやっと顔を出した姐さんが、手紙を覗きこんだ。
『お前の家族、明日を待たずに死ぬ気だよ』
夢の国の意味を、姐さんが教えてくれた。
『こう書いてある』
――家族全員で逝くつもりでした。
だけど、最期まで私たちの希望だったこの子には、生きて欲しい。
どうか運命の瞬間まで、この子が幸せでいられますように――
逝く、というのは、夢の国へ行くのとは、意味が違うらしい。
――愛する太陽、どうか優しい人に拾われますように。
あったかくて明るくて、名前の通りお日様みたいだった太陽。
残された1日を、どうか幸せに――
『どうすんだ、お前』
『姐さんは?』
『アタシは予定通り……』
『おじさんは、待ってるって、言ってたよ』
姐さんは迷惑そうに、また顔をクシャクシャにする。
ボクはゲージを飛び出して、初めて外の世界を踏んづけた。
『ありがとう、姐さん。ボクはボクの家族のところへ帰るよ』
姐さんがそれからどうしたのか、ボクは知らない。
ただ大好きなパパとママとマユミの元へ、がむしゃらに走った。
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