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最終話 飼い猫
「ケイト、僕の故郷の話を聞いて?」
いつかキミを連れて行きたいと思ってたんだ、と、ユウジは話しはじめた。
草原、緩やかな丘、降り注ぐ太陽。
キラキラ光輝く小川、森には果実や木の実。
沢山の色とりどりの花が、風にそよいで揺れる。
そんな中を、元気に駆け回る動物たち。
夢の中のような、幸せに満ち足りた優しい世界。
――そこがユウジの故郷ではないことを、私は知っていた。
彼は多分、自分の故郷など知らない。
語っているのは、彼の理想の地だ。
雪の降り始めた窓の外をチラリと見やると、ユウジは立ち上がってカーテンを閉めた。
「そこはいつも天気が良くてね」
空は真っ青で高く、陽射しがぽかぽかと暖かい。
雨は降らないけど、川の流れは豊かで水には困らない。
上流には滝があるから、しょっちゅう虹が出ているんだ――。
ユウジが語る世界が、私には見えた。
私はその国を知っている。
私がもうすぐそこへ行くだろうことを、私はよく分かっていた。
ユウジは、何をどこまで、分かっているのだろう。
「ケイト、キミは虹を、見たことがあるかい?」
――ユウジ。
猫の色覚にはね、赤や緑はないんだよ。
くすんだ青と濁った黄色の世界の中に、私は生きている。
ニンゲンが虹と名付けた架け橋を、私は未だに見たことがない。
だけど。
「もしも一緒にそこへ行けたら。ケイト、一緒に虹を見よう。七色の橋を、僕たちはもしかしたら、渡れるかもしれないよ」
ユウジが頭に描いた世界が、私には見えた。
今私の頭の中には、生まれて初めて見る鮮やかな色が散りばめられている。
ああ、ユウジ。
キミはこんなにも美しい世界の中で、ずっとひとりで生きてきたのだね。
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