14人が本棚に入れています
本棚に追加
4 飼い猫
【ケイト×ユウジ】
◇ ◇ ◇
ユウジは私の自由を奪うことを良しとしなかった。
だから、この家の猫用の出入り口に鍵がされたことは一度もない。
刻一刻と『その時』が近付き、私は隙を見て彼の傍から離れなければならなかった。
私は信じていた。
すぐに『虹の橋』へ行けること。
そこですぐにユウジと再会できることを。
ユウジが夢見たユウジの理想の世界で、今度こそ何にも邪魔されることなく、一緒にいられることを。
だからほんの一時の離別など、決して怖くなかった。
そして、ユウジも。
きっとユウジもそうなのだと、私は思い込んでいた。
『故郷』の話を聞かせたのは、離れ離れになっても、そこでまた会おうという約束なのだと。
ユウジが眠りに落ちた後に動いたつもりだった。
するりと腕の隙間から抜け出して、音を立てずに。
私用の出入り口がいくら押しても開かないことに驚愕した。
まさかユウジが、この扉に鍵をかけるなんて。
身を翻し、目指したのは風呂場の換気窓だ。
この小窓が常に開いていることを、私は知っている。
やはりそこまでは閉じられていなかったのを見て、安堵のため息を吐いた。
「ケイト」
不意にかけられたその声に、びくりと身体が跳ねた。
暗闇の中に、ユウジはじっと佇んでいる。
この暗さで私が見えているはずはないのに、彼の目はじっとこちらを見据えていた。
悲しみを宿したその瞳に、全身が打ち震えた。
長い沈黙の後に、彼は言った。
「やっぱり、行ってしまうの?」
――その言葉で、私は全てを理解した。
ユウジは猫たちが次々と姿を消していった理由を知っている。
私もそうするつもりであることを知っている。
『虹の橋』で再会できるだろうことも、恐らく知っている。
私があの窓から外へ出られることすら、彼は知っているのだ。
その上で。
――最期の日まで、ずっと一緒にいよう――
行かないで欲しいと、ユウジの心が泣いている。
最初のコメントを投稿しよう!