最終話 飼い猫

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4 飼い猫 【ケイト×ユウジ】    ◇   ◇   ◇ ユウジは私の自由を奪うことを良しとしなかった。 だから、この家の猫用の出入り口に鍵がされたことは一度もない。 刻一刻と『その時』が近付き、私は隙を見て彼の傍から離れなければならなかった。 私は信じていた。 すぐに『虹の橋』へ行けること。 そこですぐにユウジと再会できることを。 ユウジが夢見たユウジの理想の世界で、今度こそ何にも邪魔されることなく、一緒にいられることを。 だからほんの一時の離別など、決して怖くなかった。 そして、ユウジも。 きっとユウジもそうなのだと、私は思い込んでいた。 『故郷』の話を聞かせたのは、離れ離れになっても、そこでまた会おうという約束なのだと。 ユウジが眠りに落ちた後に動いたつもりだった。 するりと腕の隙間から抜け出して、音を立てずに。 私用の出入り口がいくら押しても開かないことに驚愕した。 まさかユウジが、この扉に鍵をかけるなんて。 身を翻し、目指したのは風呂場の換気窓だ。 この小窓が常に開いていることを、私は知っている。 やはりそこまでは閉じられていなかったのを見て、安堵のため息を吐いた。 「ケイト」 不意にかけられたその声に、びくりと身体が跳ねた。 暗闇の中に、ユウジはじっと佇んでいる。 この暗さで私が見えているはずはないのに、彼の目はじっとこちらを見据えていた。 悲しみを宿したその瞳に、全身が打ち震えた。 長い沈黙の後に、彼は言った。 「やっぱり、行ってしまうの?」 ――その言葉で、私は全てを理解した。 ユウジは猫たちが次々と姿を消していった理由を知っている。 私もそうするつもりであることを知っている。 『虹の橋』で再会できるだろうことも、恐らく知っている。 私があの窓から外へ出られることすら、彼は知っているのだ。 その上で。 ――最期の日まで、ずっと一緒にいよう―― 行かないで欲しいと、ユウジの心が泣いている。
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