14人が本棚に入れています
本棚に追加
大好きなこのヒトに、泣いて欲しくなかった。
傷ついて欲しくなかった。
悲しませたくなかった。
ずっと傍にいたかった。
「ケイト」
優しい、美しい、綺麗なユウジ。
大好きなユウジ。
私のユウジ。
「その窓に鍵をかけることが、僕にはどうしても出来なかった」
ユウジ、キミの目から落ちる雫すら、なんて奇麗なのだろう。
いっそ閉じ込めてくれていれば、私はキミのせいに出来るのに。
「行ってしまわないで。僕が必ずキミを守るから」
――キミを包んで、キミが怪我をしないように、傷つかないように、痛い思いをしなくて済むように、怖くないように、醜いものを見なくて済むように、僕が守るから。
そうしてほんの少しだけ先に逝く僕を、お願いだから、一番近くで看取って。
僕はキミの亡骸を見る前に、一足先に約束の場所へ戻るから――
その叫びが、切実であればあるほどに。
……痛烈であった。
窓枠に飛び乗った、微かな風は彼に届いただろうか。
彼は窓に鍵をかけなかった。
これは、唯一彼が私のために残した逃げ道である。
彼は私の自由を奪うことを良しとしなかった。
私は彼の元で、いつだって自由だった。
それは彼の、深い深い愛だった。
「ケイト」
――ユウジ。
「……また会おう、ケイト。――僕の『故郷』で」
『虹の橋』は――
ニンゲンに愛された動物が、死後その人と再会するための場所である。
私がユウジの元を離れるのは、猫の掟のためなどではない。
彼と再び巡り合う、ただそのためである。
彼は私に逃げ道を残した。
それは、深い深い愛だった。
私にはここに残るという選択肢があった。
掟を破ることは、そう難しいことではない。
残ることはつまり、彼の深すぎる愛に応えるということだった。
私のこの、育ち過ぎてしまった愛を以て。
そのようにして全てが過ぎ去った後、きっと私たちの前には、『虹の橋』は現れないだろう。
さようなら、ユウジ。
愛しいユウジ、私だけのユウジ。
キミが夢見た、キミの理想の美しい世界で。
もう一度、巡り合いましょう。
私はキミのペットとして、家族として、きっとそこで待っています。
もう一度巡り合えたら、今度こそ決して、私はキミから離れない。
今日この暗闇の中で確かに感じたキミの深すぎる愛を、私はきっと、永遠に忘れない。
最初のコメントを投稿しよう!